28 10月 オーガニックの原材料を手に入れようと思ったら、『しまね有機ファーム』しかない、という事業にする。苦労はするけど、新たなチャレンジをしていくことが私どものグループの強みです。
GO ganic PEOPLES! #04
しまね有機ファーム株式会社 / 代表取締役社長 古野 利路さん
写真・文 / 戸田 耕一郎(GO GOTSU.JP編集部)
「子供たちの未来のために、豊かな自然環境と安全安心な食の確保を。」をスローガンに掲げ、有機農業を実践する生産者とオーガニックな食や暮らしのあり方を提唱する民間の有志メンバー、それらをとりまとめる江津市農林水産課。仲間づくりや有機農業を目指す人材の発掘、オーガニックに対する意識醸成といった啓発活動を三者で手を取り合って進めていく有機農業推進プロジェクト、それが『GO-ganic』(ゴーガニック)だ。
GOGOTSU.JP編集部ではこのプロジェクトの中心的な役割を担い、啓発活動を続ける方々のお話をお聞きし、連載としてお届けします。題して『GO▶︎ganic PEOPLES!』。第4弾は1998年より桜江町に本社を構え、有機栽培による桑の葉栽培、それを原料に開発された数々の加工製品を主力に事業を行う「しまね有機ファーム株式会社」をお伝えする。有機JAS認証による原料生産と販売と多彩なラインナップを揃える自社商品開発、そして健康食品のOEM企画を主力事業とし、30年近い実績を誇る。産地と生産工場、商品企画と開発までを一貫して行う自社の強みを活かし、国内だけではなく海外からのオファーも受け欧米を中心とした輸出業も行う。「オーガニック原料を求める企業がしまね有機ファームに辿り着き、多くの企業が島根の桜江町に興味を示してくれます。」と語るのは代表取締役社長、古野利路さん(以下、古野さん)。
なぜそんな仕組みができたのか。自社の事業にどんな想いや構想を抱いているのか。江津のオーガニック産業に未来はあるのか。桜江という土地でやることのベネフィットとは。生産組合や研究会など複数の法人をグループ企業として統率するしまね有機ファーム株式会社(以下、しまね有機ファーム)の古野さん。早速話を伺おう。
江津は人の個性や自然環境、生活文化のあり方が素晴らしい。弊社企業理念とマッチングしているんです。(古野さん)
▲江の川とともに文化が発展してきた桜江町。しまね有機ファームが保有する桑畑の一角。
「今、国がオーガニックを推進していますよね。そこに投入できる予算があるわけですが、観光地のような場所だと見せ方も変わってくるでしょうし、オーガニックのブランディング(伝え方・価値付け)は各地様々です。少し偏っているなという印象はあります。九州では有機栽培のお茶の輸出量を増やし国の目標輸出額を目指しましょうとは言っていますが、大規模な産地にしないと難しいでしょうし、米は有機国内生産量も異常気象等であまり増えてなく重量物で輸出規制も厳しい為利益を上げにくい。となると有機農業産業で可能性があるものは単価の良いお茶とか畜産しかないよね、と。
本質のオーガニックに力を入れている方は江津地域に非常に多いですね。江津は人の個性や自然環境、生活文化のあり方がウチの企業理念とマッチングしていると感じています。25年やってきてこれからもっと注目されると思っていますよ。」(古野さん)
かつて桜江では島根でも有数の養蚕業(※編集部注:カイコ(蚕)を飼い、その繭から生糸(絹)を作る。取れた生糸は加工され絹織物などの繊維として使用される。)の一大産地で盛んに行われていた歴史がある。カイコを育てるためには桑畑が必要なわけだが江の川流域の土壌は肥え、この一帯にできる桑の葉は厚くて大きい。また、カイコを育てるためなのか桑には農薬が使われることもなかった。20年以上経過し、放置されていた桑畑だったが未だ活き活きしており、しっかり育った大木もあるという。
現・代表取締役会長(父:古野俊彦さん)は桜江にある自然環境と土地の魅力に惚れ込んだ。桑畑は栄養が豊富で桑を育てるのに最適な場所だと確信し、1998年に福岡からIターン。里山再生プロジェクトとしての意味合いも兼ねて「桜江町桑茶生産組合」を創業した。2000年頃には古野さんも江津にIターンし、そのタイミングで生産組合は法人化された。現在は「有限会社桜江町桑茶生産組合」 「有機の美郷有限会社」「邑智郡機能性特産物研究会」といった事業目的別に「しまね有機ファーム」グループとして関連会社をもつ。
「長い歴史があったのだからきっと桑の機能性もあると思い、データを取り始めました。実際健康食品からユーザーになっていく人っていうのは主に農薬とか化学薬品に敏感な人が多いです。特に病気になった人。健康食品を買うのに農薬が入ったものを手に取る人はいません。作る側は自然の力で出来たピュアなものをお届けする。それがコンセプトです。以降一貫してオーガニック中心に活動してきました。今では調味料や化粧品原料、漢方の原料になるものもオーガニックがいいということでグローバル化され、海外からもオファーをいただくようになりました。欧州向けにオーガニックの漢方の原料をメイドインジャパンとして輸出するなどニーズに合わせて事業拡大しているというのが現状です。サプリメントのような健康食品だけではなく、オーガニック認証基準でスパイスのような調味料も製品化しています。
今まで添加物や化学薬品を入れて輸出・流通されていたものを弊社ではなるべく使わずに作りたいと実践しています。かつ賞味期限を長くして流通させていけるような技術開発、日本の技術の力で貢献できるかということを今盛んに進めています。基本私どもはオーガニック製品以外の取り扱いはありません。」
当初から変わらずにやり続けている農作物6次化事業。桑の葉を原料とする製品群が多く並ぶが、健康食品製品のために菊芋、大麦若葉、ケール、えごまの若葉も栽培する。野菜類の有機JAS認証をとって生産するイメージはわかりやすいが、パッケージ製品、加工製品のオーガニック(=有機JAS認証)と聞くとより厳格な生産プロセスがあるのではないだろうか。
▲桑の葉の加工場は有機JAS認証を取得しているだけあって隅々まで清潔な状態が徹底されている。(写真提供:しまね有機ファーム株式会社)
「加工品のオーガニックって実はとても大変なんですよ。衛生管理や菌規格、賞味期限のことなどハードルがぐっと上がるんですよね。工場で少しでも『加工』をしたらその対象になるわけです。少しでも異物が入っていたらニュースになる現代で、普通の商品と同じ水準のものを提供するために高価な機械を使っています。
オーガニック基準で加工するとなると、次亜塩素(※編集部注:塩素系除菌漂白剤の主成分で、一般的に殺菌・消毒を目的として上下水道や食品に対して使用される化学物質のこと)や殺菌剤、保存料や添加物は使えません。こういった1次加工をやっている工場が全国でも少ないのは、そういった手間がかかるので参入障壁が高いとも言えますね。桑があったことでいろんな経験ができました。設備投資リスクや従業員スキルアップなど厳しさもありますが、今では社内スタンダードとしての社風があるので苦にはなっていないんですけどね。(笑)」
『妥協なく、迷わず選んでもらえるものをつくる』ということが理念になっています。(古野さん)
有機栽培やオーガニック製品の定義として認証や規格の整備がきちんとなされていることは国際基準としてとても重要なことだ。例えばISO22000は、スイス・ジュネーブに本部を置く国際標準化機構(ISO)が策定した食品安全に関するマネジメントシステムだ。食品に潜むリスクを理解した上で適切に管理するシステムで例えば手洗いが徹底されているか、されていなければ必要な対策を講じるといったリスク対策を仕組み化し、社内全体で管理できるようにする。
食品製造業者をはじめ、食品を生産する一次生産者(農業や漁業など)や食品の輸送・保管業者、食品を販売する小売業、飲食店などのサービス業、洗浄剤・添加物などの製造を行う食品関連業者、食品の包装資材業者といった産業のあらゆるところに精通した仕組みと認証規格である。取引先や消費者の信頼性の向上、食品安全リスクの低減、従業員の意識・教育改革はもちろん、業務効率化などメリットは大きい。
FSSC22000に至ってはISO22000をさらに強固にした食品安全に関するマネジメントシステムとされている。現在、しまね有機ファームはISO22000を取得し、今後FSSC22000という一番厳しいとも言える国際基準を目指しているという。殺菌剤等薬剤を使わずにオーガニックで加工を行う厳しさと難しさ。食の安全を証明する国際基準ルールをクリアできるので大きなアドバンテージが約束される。
「そもそも農薬を使って原材料を栽培したり、防腐剤を使用し製造するという概念が私自身に全くないので、設立当初から害虫被害などあっても『仕方ない』と諦めるのが普通でした。逆にいうと農薬や化学肥料を使って害虫を除去したり、回復させようするというようなやり方や概念を知らないんです。もともと農薬を使っていた人がオーガニック栽培に切り替えるよりはラクなことかもしれませんね。
一般の消費者でも有機商品を選択する方が増えていますので消費者の方に対しても『妥協なく、迷わず選んでもらえるものをつくる』ということが理念になっています。それと、OEM(※編集部注:相手会社の発注品の、相手先ブランドの形をとった生産方式。)でオーガニックの原料を探している企業はしまね有機ファームに辿り着く確率が非常に高いです。そういった『黒子の立場』での知名度を知っている方は興味をもって接してきてくれますね。」
「オーガニックの原材料を手に入れようと思ったらしまね有機ファームしかない、という事業にする。苦労はするけど新たなチャレンジをしていくことが私どものグループの強みです。」(古野さん)
有機JAS認証も食の安全規格のひとつだ。これを相対的に見たときのコストパフォーマンスや事業性、併せて有機JAS農家が拡がっていかない現状についてもお聞きしたい。
「有機JASのコスパについてはものによる、と考えています。栽培まではいいですけど、例えば100gづつ小分けにしてパッキングして届けるという作業が大変だろうと感じます。そこは慣行農家も有機栽培も同じです。野菜のコストはJAさん(農業協同組合)のように集荷施設や大型ラインを持った企業に出せばコストダウンもできますが、物流倉庫など拠点のないオーガニック農家は全部自分たちでやらなければいけないんですよ。そうなると小分けのラインがあるわけではないし、すべて手作業になるのでそこにどうしてもコストがかかる。これがオーガニック野菜市場が全国で広がっていかない原因のひとつです。つまり物流と小分けコストです。
私どもが厳しい基準や規格を乗り越えてでも加工事業をやっているのは保管も常温、販売も年間分割して収支を合わせながらやれているからです。多品目展開していますが、農業部門は異常気象もあり25年間いまだに利益を上げにくいのですよ。加工部門や企画販売からの利益で回している状況ですが、それによって農業はトントンでも原材料を確保するためにできているという捉え方です。農業(原材料生産)をやめて海外や他産地から原料を仕入れるようにすればきっと黒字化できる企業だと思いますが、そうなると今はいいのですが先々を考えると必ず問題が出てくる気がしています。
国産原料であれば産地のリスク分散にもなるし、私どもの会社に依頼頂ける企業からすると原材料もまとまった場所にあることで物流コストを半分以下に抑えることができる。島根に頼むメリットがあるから頼んでくださる。一大産地としてオーガニック原料があってすぐ近くに工場があること、一貫して製造できるラインがあること、最終の商品パッケージまで製造し、商品企画もできると。25年間の業界実績もあってマーケットにも精通しているとなれば、一式頼んだほうがラクだろうと。むしろ、そのようなビジネスモデルを目指していかないと島根中心でやっていくのはなかなか難しいですよ。
ISO22000やFSSC22000を取得しているのは大手工場がほとんどの中、なぜ取るかというと有機認証の一次生産工場で取得している企業がほとんどないからなんです。」
これらの認証を取得すれば企業の加工情報などがオープンになり、大手企業側からも管理基準を満たした企業にアクセスできるという宣伝効果はもちろん、監査も不要になり、圧倒的な信頼度を手にすることができます。FSSCをとっている工場以外は原料入荷ができない企業があることを考えると、BtoBにおいてはFSSC22000があるか否かは非常にわかりやすく、相当強力な企業PRである。言ってしまえば「オーガニックの原材料を手に入れようと思ったらしまね有機ファームしかない」というような状況になり得る。国内需要だけではなく、米国や欧州、国際的に可視化されたフィールド上の企業となり、しまね有機ファームだけが持つ原材料となればそこで大きなチャンスが生まれてくるというのが古野さんの事業戦略だ。「苦労はするけど新たなチャレンジをしていくというのが私どものグループの強みでもある。」と古野さんは言う。
欧州委員会の2019年の発表によると、EUでは有機農業に対する消費者の関心は高く、有機市場の成長に対して供給が追い付いていないとされるほど市場拡大スピードは早い。EUの有機農地をみれば、直近10年間で70%以上増加し、2017年時点で1260万ヘクタール(※編集部注:1ヘクタールは100m x 100m)となった。その市場規模は343億ユーロ(4兆1160億円)まで達している。有機農地はEU総利用農地面積の7%に相当し、全世界の有機農地面積(6980万ヘクタール)のうちEUが占める割合は18%と、オーストラリアに次ぎ世界第2位の数字だ。
しまね有機ファームの販路、流通は9割が国内、1割が海外だ。欧州はじめ、オーストラリア、シンガポールと続く。今年は北米、カナダへの輸出が始まった。今後はトータルの3割を輸出にするプランがある。当然といえば当然だが、輸出先の特徴は富裕層が多く、オーガニックのマーケットが確立、あるいは成長が見込める地域が中心で日本とのオーガニック市場の違いは民間レベルで食の安全、健康意識の考え方全般にあるという。
「わかりやすいのはアメリカです。アジアンマーケットやホールフーズ、オーガニックスーパーマーケットなどそれぞれに特徴があります。まず、原料を路上で選別するような格安店に富裕層は行きません。ホールフーズ等の高級スーパーは衛生基準や包装も厳しいし、そこに出荷するためには残留農薬検査をやっておかなければいけない。
要はスタンダードがオーガニックなんですよ。日本で小規模に野菜を出荷する流通市場で残留農薬証明出せとか、ISOの規格書でフローダイアグラム(※編集部注:原料の受入から出荷までの流れを分かりやすく伝えるための製造工程図)どうなってるの?なんて聞かれることはほぼありません。一方、海外のオーガニック市場へ輸出するとなると資材や原料接着剤の安全基準までもデータを出さないと流通させることすらできないわけです。食品に関する『差』を感じますよね。」
その一方、賞味期限や調味料のビンが紫外線で変色したようになっていたり、湿気で固まっていたり、そういうのは気にしないという海外の「雑な感じ」も国民性として色濃い一面だ。例えば野菜にしても量り売りのような瓶などに少々虫が入ってても「オーガニックだからこれくらいは当たり前でしょ?」といった海外の日常を筆者も経験したことがある。とはいえ不思議と悪い印象はない様子だった。
「日本人がもし本当にオーガニックを推進して大きくしていったら凄いじゃないですか。クオリティでは勝てないですよ、海外は。私どもは海外でトラブルなんて1回も出ていませんからね。それくらい異常な真面目さがある国なんですよね日本は。もともとの基準が厳しすぎる分、クオリティは高い。アジアの一部など海外のクオリティはまだ日本より低いとも言えます。せっかく大事に栽培したものを保管や梱包、流通で雑に扱ったりね。これをもっと綺麗に、美味しい商品を展開すれば絶対売れるよね、というところから海外展開が始まったんです。
関税や輸送コストを考えると向こうでの販売単価が高いから全部利益ということではありません。国内の卸金額だって海外とそれほど変わらないんです。海外に出したら儲かるのではなくて、海外企業のほうが弊社商品を求めていただけてるから輸出を強化しています。日本で1本1,500円の柚子胡椒を出しても買ってくれる人はコンマ数%レベルです。でもヨーロッパやアメリカなど理解のある市場であれば物流コストがかかり高くなっても月に3万本、4万本普通に売れています。輸出は増やしたいですけど、最大でも3割まで。日本が成長して市場が大きくなって国内でしっかり流通ができれば逆に言えば輸出する必要がないとも思っています。」
オーガニック市場が広がっていかない日本。古野さんに聞いたその理由。
(写真提供:しまね有機ファーム株式会社)
オーガニック産業に携わることがある人はなぜ日本ではオーガニック市場がいまいち拡大していかないのだろうと考えることは一度や二度ではないはずだ。農地面積に占める有機栽培の割合を比較してみると、日本で有機JASを取得している農地は全体の0.3%程度。さらに流通コストも相まってやや高くなることで「高価なもの」「いつでもどこでも手に入るものではない」と印象づけられてしまっている現状がある。さらには日本の平均賃金や可処分所得が伸び悩んでいる経済的要因なども考えられる。貧困率も欧米諸国に比べると2018年時点で15.7%(2018年)に上り、たとえ欲しくても買えないといった現実もきっとあるだろう。
「物流コストだと思います。例えば葱(ネギ)です。葱って空洞ですよね。桑の乾燥品で例えると10kg入るもの(箱)に対して2kg分しか入らないんです。空気を運んでるようなものです。それを小分けにしてパッキングするとほとんど包材の重量を運んでいるようなものです。 さらに(中継地点から)スーパーなどに分配して運ぶとなると送料が高くなる。末端価格に反映されて1個2グラムしか入ってない乾燥ネギが600円700円になってしまう。ニーズとマッチングできなくなりますよね。有機栽培の作物が日本全国に分配して見合うだけの生産量がないといえます。これがいちばんの原因だと私は考えています。
例えば(有機ではない)新鮮なキャベツ1個が100円以下でなぜ買えるのかというと、産地も大きく安く運べる物流ラインがあるからです。小規模の有機栽培の場合自分たちで宅配しようと思ったら段ボール1個で送料が700円〜800円かかります。大量に生産できる栽培物が一箇所に集まっているかどうか、ここですよ。都心部の一部の高級スーパーで取り扱っているオーガニック野菜は一極集中でまとまった単位で送ってどうにかやっていますが、さらに各地に送るようなことをしたら一気に価格が上がってしまいますよね。」
しまね有機ファームは先にお伝えしたとおり、乾燥品加工品にすれば農作物の栽培分もペイできる。青果などはやらずに加工品のみで勝負する。それでも一番良いこととしては江津で例えて言うと香の宮F&Aや反田さんのような大規模な農家が今後増えていくことだと言い切る。生産規模が大きくなれば今度はJAさんがオーガニックを扱うようになり、流通の仕組みが発展していき、市場規模も広がる可能性があるのではないか。市場規模が小さいままだと事業化が難しいと判断され、参入しにくくなってしまう。消費者市場は広がらない。なにか明るい未来はないのだろうか。
「私が将来的に考えているのは(オーガニックの志がある)小規模農家さんが集まって加工品事業をやることです。賞味期限を伸ばし、ストックし、量を増やして出荷すること。それによって、県外にもアプローチのチャンスができます。私どもは1日あたり1t加工するといった生産ベースがありますが、もうちょっと小型機の設備を充実させて1日100kgの加工を複数人で行うような、そんな仕組みができたらよいと思っています。全部合わせれば1t出るよねという算段です。そうすれば、県外のみならず世界にも提案できるような『江津の加工品』ができる。どっちが先かという話でもありますが、産地がないとできないですし、初期投資がかかる加工場がなければできません。これができれば江津にはチャンスがある。素晴らしいことだと思いますね。」
オーガニック最先端の地、桜江で考える企業としての地域貢献。「雇用を生むこと。働き口を提供したい。」(古野さん)
現在、しまね有機ファームと関連グループ企業を合わせると50名弱の従業員がいる。しまね有機ファームの特徴として設立当初から従業員の方々は農業経験者が少ない傾向にあった。「全く既成概念のないようなタイプの方や、土建業から転職する方、サラリーマンから農業を始めたという方も多いですよ。むしろ先入観がない方のほうが弊社では長く働いて頂いています。」と笑うが、桜江はオーガニック最先端で産業があった地域であることは間違いなく、オーガニックでやっている想いは他の地域に比べると強いと古野さんは分析する。 有機栽培に関しては慣行農業やってる方々からすれば「なんて効率の悪い農業をやっているんだ」と思われる方は多いと古野さんは言うが、30年近い実績が積み重なった今、会社を取り巻く状況は明るい。
「そもそもは桑の遊休畑の解消と再生がコンセプトでした。それと雇用を生むことです。今は雇用不足ですよね。遊休畑もある程度の基盤整備も増えてきましたし、時代も変わってきた。地域のニーズも昔とは違います。新型コロナの社会になって以前の農業ブームとは違い、本質的な地方の移住や自給自足で農業に意識がある人が増えてるなと感じています。大学などでオーガニックに関する講義をする機会もありますが、オーガニックや地方での生活に興味を持つ20代の学生たちが増えていると感じます。改めて江津の良さをアピールすることについて企業としてどうやって貢献できるのかということを考えるようになりました。
そのひとつとしては働き口の提供です。これまでは事業でいかに外貨を稼ぐかということでしたが、若い人たちが作ったオーガニックの作物を買取保証してあげるということもこれからはできると考えています。作物を作ったりするのは好きだけど、売るのは苦手という若い子は多いんでね。(笑)そういう若い世代が集まりやすい環境をつくるとか、住むために社員寮を作ったりとか場所の提供も併せて必要になってくるかなと思います。面接や研修に来たい方もますが、住む場所がないのでなかなか進まないということがあるんです。海外の方も同様。短期間宿泊できる設備があれば若い子のチャンスが増えますよね。畑付きだったらまた面白いですよ。1ヶ月滞在ではなく1年いてもらうようなね。
今バングラデッシュから数名働いてくれていますが、自由に使っていい畑を用意してあげています。ただ単に働くだけじゃなくて将来自国に帰ったときに自分にスキルを持てるように。少しでも多く体験することができればきっといつかは役に立ちますよね。」
福岡出身の古野さん。江津へはIターンとなるが、四半世紀が経過した。当時はオーガニックという言葉はもちろん、そのような概念も一部にしかなかった。有機栽培という言葉が使われる機会はほとんどなく、今ほど浸透していない時代だけにやりにくさは今とは比べ物にならないだろう。しかし当時から「ここ(江津)なら有機栽培の事業ができる。」と確信していたのは土地の持つ力を感じ、世界が評価する製品を開発できると信じていたからに他ならない。 江津市が取り組む有機農業推進プロジェクト『GO-ganic』のことはもちろん知っている。
「GO-ganicという取り組み自体が一人歩きして、認められるには数字しかないと思いますよ。」と捉えている。やっている、がんばっているではただの「やっています運動」に過ぎない。事業として確立し、正当に評価を得るには発した内容と取り組みを目標達成しなければいけない。これは常に厳しい現実と向き合う事業者にしかわからないことだろう。
「国にも認めてもらわなければいけないことですよ。ただ単にこういう活動やってます、ではなくて。例えば桜江でもいいから町単位でナンバーワンだよっていうようなことを意識しなければいけないですよね。なんで島根のあそこがナンバーワンなのって注目を浴びないとオーガニックな活動のしやすさは拡がっていきません。江津の有機農業でも活躍している大畑さんや反田さんもそうですし、私どもも合わせたら有機農業の耕作地としてはそこそこの面積になりますよね。
もっと有機農業に賛同するメンバーを集めていけば、あらゆる項目生産出荷額も成長していける計画を立てることができると思います。せっかくオーガニック給食への運動も掲げているし、50%くらいになれば全国はもちろん、世界でも認められるような地域になります。それがSDGsにも繋がると思っています。」
2024年6月、江津市長も町として「オーガニックビレッジ宣言」を行なったことで有機農業の推進が公的なものとなった。この先5年10年は町として発展していくための財源としても、就農や移住や定住に関わる分野においてもあらゆる意味で重要な時期になるはずだ。オーガニック産業の世界的なニーズがあるのは間違いなく、環境に良いことやヘルスコンシャスを求める時代であることは間違いない。
「これから生活環境も含めて江津は海外からもっと注目され、必ず求められる場所になると思います。なぜなら(有機栽培の地として)作り上げられた場所ではなく、元々あった場所ですから。あるものを守っていくということ。拡大よりも確実に成長させていくイメージです。それに加えて、これからは『オーガニックではないものもオーガニックに取り込んでいく』というようなイメージを私は持っています。」
有機農業の推進に向けてこれからの時代に合った取り組みを江津がどのように向き合っていくのか。オーガニック市場においては「5%のない中で商売をさせてもらっている」「その中で選んでもらえるものを作っていけなければいけない。その使命のみでやっている。」と古野さんは言うが、実績と将来性を兼ね備えた企業が江津にあるということはこの先きっと市民を勇気づけていくに違いない。
(完)