このプロジェクトに参画するようになってから色々な職種の方々と関わりができた。有機農業を推進するにはいくつも課題はあるけれど、みんなで乗り越えていきたい。 - GO▶︎ganic|つなげよう、有機農業の輪
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このプロジェクトに参画するようになってから色々な職種の方々と関わりができた。有機農業を推進するにはいくつも課題はあるけれど、みんなで乗り越えていきたい。

このプロジェクトに参画するようになってから色々な職種の方々と関わりができた。有機農業を推進するにはいくつも課題はあるけれど、みんなで乗り越えていきたい。

GO ganic PEOPLES! #02
香の宮 F&A / 代表 大畑 安夫さん
写真・文 / 戸田 耕一郎(GO GOTSU.JP編集部)
 

 

「子供たちの未来のために、豊かな自然環境と安全安心な食の確保を。」をスローガンに掲げ、有機農業を実践する生産者とオーガニックな食や暮らしのあり方を提唱する民間の有志メンバー、それらをとりまとめる江津市農林水産課。仲間づくりや有機農業を目指す人材の発掘、オーガニックに対する意識醸成といった啓発活動を三者で手を取り合って進めていく有機農業推進プロジェクト、それが『GO-ganic』(ゴーガニック)だ。

GOGOTSU.JP編集部ではこのプロジェクトの中心的な役割を担い、啓発活動を続ける方々のお話をお聞きし、連載としてお届けする題して『GO▶︎ganic PEOPLES!』。第2弾は都野津町で有機農業を始めて約30年、香の宮F&A代表の大畑安夫さん。(以下、大畑さん)ビジネスとしての有機農業、江津で有機農業に取り組むことへの課題や改善点、そしてGO-ganicの役割や目的。多岐に亘ってお話を伺った。

 

「有機だから絶対美味しい」ということを言いたいわけではない。美味しく作っているところのものは十分美味しい。ただ第三者機関が認めているものは消費者にとっては安心材料だろうと。(大畑さん)

 

 

香の宮F&A(以下、香の宮)の圃場は江津のおよそ中心部に位置する都野津町にあり、この場所で約30年有機農業を営んでいる。社名のF&Aとは「ファーム&アグリカルチャー」。創業当初は「無農薬無化学肥料」という言い方をしていたそうだが、有機JAS認定を取得して以降「有機栽培」と表示し、ハウス栽培を中心として野菜をつくる。また、江津で平成26年(2014年)に設立された有機農業推進協議会の代表を務める他、「いわみ地方有機野菜の会 代表」や「株式会社ぐりーんはーと 取締役」の肩書きも持ち、地域の有機農業者として大きな役割を担っている。創業当時から江津で有機農業が拡大できればおもしろい、という想いがあってここまでやってきた。生産者だけに限らず家庭菜園レベルの人を含めて少しずつ同じような意識の人が増えてきた印象もあると大畑さんは語る。

 

「サンピコ(正式名称:「道の駅」サンピコごうつ)が出来て14年目になりますか。当時は江津の農産物を売る場所がないことが私たちの課題でした。そこから直売所として道の駅構想が立ち上がり、当時農林水産課にいた松島さんという担当者の方が『江津の野菜を育てていきましょう!』といって土日ものぼりを立ててPRしてくれたりしてね。熱心にはたらきかけてくれていました。それを見ながら生産者側も買う側も有機農業の認識が広がり、地域全体が元気になっていったらいいなと思っていました。もちろん江津の有機農業推進協議会が県内でも早い段階で設立されてますし、これからも江津が有機農業に取り組む町として続いていけるよう、日々野菜を育てています。」
(大畑さん)

 

農林水産省による「有機JASの制度」が始まったのは2001年。この制度ができた背景には「有機」「オーガニック」「自然」「ナチュラル」のような表示・表現が、有機農業の広がりとともに一般的にも認知されるようになったことにある。しかし一方、なにが「有機」でなにが「オーガニック」なのかが伝わり切らず消費者を混乱させていた。 商品やサービスを提供する側でさえ有機の定義が曖昧である上に、耳あたりの良い「オーガニック野菜」「自然栽培」と使われていることが次第に問題視されるようになった。そこで有機農産物のグローバル基準化が進む中でいわゆる「JAS法(農林物資の規格化等に関する法律)」が改正され、「有機認証制度」が始まった。

有機JASはもちろん国内における独自規格だが農林水産省に認可された第三者機関(登録認証機関)によって検査され、認証を受けたものに限り「有機農産物」または「有機加工食品」として表示できるようになった。認証された商品は有機JASマークを使用することができ、「有機○○」等と表示できるようになる。消費者も安心して手に取ることができるようになった。言うまでもなく認証を受けていない事業者が有機JASマークの使用や「有機○○」と表示して商売をすることはできない。

国内の有機農業の面積は、日本の基準を満たしたもので、2万3,700ヘクタール(2018年時点)と、農地面積のうち、わずか0.5%にとどまっているのが現状だ。国際基準を満たしているものと言えばさらに少ない。一方、農林水産省は新たな目標として国際基準を満たす有機農業を2050年までに農地全体の25%、100万ヘクタールにまで増やすと発表している。現状の40倍以上の耕地面積拡大という驚きの数字である。先般、本市も宣言した「オーガニックビレッジ宣言」などの施策もこのような取り組みの一環だろう。


香の宮は早々にこの有機JAS認証を取得した。取得当時、周囲にはまだ有機JAS農家が多くはなく、界隈の注目を受け、商圏は広島まで拡大するなど当時はそれなりの反響があったという。

 

「有機JASの野菜といっても決してそんなに高いわけではないんですよ。ただ、間に入る仲介業者がいっぱいいるんですね。ビジネス上の伝手や付き合いもあって流通経路をつくっていくわけですが、例えばうちで100円で出した野菜が末端価格は上乗せされて高価な野菜になってしまうようなこともありました。高価な野菜だという印象が持たれたことによって以後扱いが減ってきたような時期もありましたね。

有機JASに真剣に取り組んでいる農家と、これを機に有機JASに興味をなくした(あるいは有機JASの取得をしない)農家とありました。全体で言えば有機JAS農家は少なくなったのかなとは思いますね。」
(大畑さん)

 

 

現状、有機栽培の中心となっている野菜は取り組みやすいという理由から「葉物」「土物」だ。香の宮の出荷状況は都市部に届けるほうが販路・価格がより安定することから県外に全生産量の9割を流通させる。そのうち半分近くは東京とその近郊だ。ハウスは年間7回転させ、例えばほうれん草で年間15トン。(一束200グラム換算でおよそ75,000束)小松菜は19トンの生産を行う。

日本の耕地面積に占める有機農業の取り組み面積の割合は農林水産省の公開資料によれば平成22年度時点で全体の0.4%(16.7千ha)だったが、令和2年度時点で0.6%(25.2千ha)まで上がっている。

「うちの会社が30年やってる間でも0.2%程度しか伸びてないんです。国は25%を目指すというちょっとびっくりする数字を掲げていますけどね。」と大畑さんは苦笑するが、それくらい有機JAS認証の耕地面積を広げることは容易ではない。「国が後押ししてくれるようなPRをしてくれると追い風にはなるでしょうけれども、扱いづらい野菜もあるので簡単にはいかないんです。ただ、『葉物』『土物』についてはこれからも有機野菜と呼べるものは増えていくと思っています。」と大畑さんは今後の有機野菜の栽培事情については前向きに捉えている。

 

 

地域のことを考えたら値頃感は大事。「これなら買える」と思ってもらわなければ商売として成り立たないですからね。有機JAS認証だからといって特別に運用コストがかかっているわけではないですよ。(大畑さん)

 

 

有機JAS認証を取得するにあたっては、認証基準の理解に始まり生産状況と認証基準との比較確認、それらの記録や整理、また社内規則の作成、申請書の作成から書類審査、そして実地検査にいたるまで維持することを考えれば当然手間もコストもかかる。(安心安全をわかりやすく伝えるための認証であると同時に「農業への真剣さ」も加味できる制度だとも捉えることができそうだ。)その分、商品代にのせていかなければ事業性が薄れてしまうのではとも感じる。

江津や浜田の直売所に行けば産地コーナーがあり、そこには有機JAS認証の野菜が販売されているが、それを見て感じるのは「こんなに安いのか」ということだ。先の「手間・コスト」を鑑みたとき、果たしてこれで折り合うのだろうか。もっとも日常食品であるし、地域が主戦場であるだけに消費者に手にとってもらえなければ意味がない。となると買いやすい値段でなければいけないということはわかるのだが、実際生産者目線ではどのように捉えているのだろうか。

 

「やっぱり値頃感というものが大事なんですよね。これくらいだったら買えるなっていう感覚。都会だったら運送費や不動産コストもかかるし一束400円〜500円するほうれん草なんかがあるんだと思いますけど、田舎だったらそれはできない。

それとね、有機JASだからコストがかかってると僕は思っていないんです。例えば農薬を買うのも結構高いし、肥料代や土壌消毒だってかかる。有機JASはそこはかからない。逆に包材やトラクターのコストなんかはみんな一緒。草抜きだって種が落ちる前に除去すればいい。気をつけていることは虫のケアですね。ハウスに入れさせないこと、太陽熱消毒でやっつけること。その点くらいかな。

ちょっと話がそれますけど、ここの畑は30年前は田んぼだったんです。当然草が本当に凄かったです。どうすればいいかわからず農協に相談したら一度だけ土壌消毒しなさいって言われてね。まあ一棟だけ一番小さいハウスで地中にガス缶のようなものを埋めてやったんですけど、『これはやらないほうがいいな』と思いました。土壌環境にいいとはとても思えなかったんです。」
(大畑さん)

 

香の宮がハウス栽培にした理由を伺ってみた。この土地で農業を志すことを決めたとき、浜田にいる大畑さんの“師匠”はハウス栽培で実績をあげており、それを見ながら「これなら自分もいけそうだ」と思えたこと、邑南町に研修にいったときもやはりハウス栽培でいい影響を受けたことだった。なにより重要に思えたことは江津はだだっ広い耕地を確保することが難しい地理環境下にあり、ビジネスとして考える以上、栽培品目と照らし合わせて狭い面積で収量をあげること、害虫から野菜を守ること(その分、土壌管理に注力することができること)の二点だ。加えて一番のメリットは「水管理ができること」だった。どうしても水をまかなければいけないときにハウス栽培ならまけること。露地栽培では気候に依存することになるので、水分管理が全くできない。これは収量を安定させるためには重要な判断材料になる。ひいては取引先との信頼関係にも大きく影響する。総合的に判断した結果、ハウス栽培一択だったという。

 

 

GO-ganicでの私の役割は生産者を育てること、就農希望者の受け入れ環境を整えていくこと。仕事と生活環境を整えなければ就農希望者を受け入れることはできない。(大畑さん)

 

「知らず知らずのうちに(このプロジェクトに)巻き込まれていったんですけどね(笑)。まあ有機農業推進協議会のこともあるのでね。それまで生産者の方くらいは知っていましたけど、こういうプロジェクトに参加すると色々なタイプの方がいるんだなということを知りました。流通の方や消費者の方、飲食店の方なんて今までほとんど知らなかったんです。こうやって生産に始まり消費者に届くまで町のPRを兼ねていろいろなことができるんだろうな、地域の発展が実現できるんだろうな、面白いなと思って参加しています。」
(大畑さん)

 

GO-ganicにおいて大畑さんの具体的な役割は「生産量をあげること」「生産者を育成すること」だ。自社で農業を始めて長い時間が経過し、今後誰が、どのようなカタチでこの先の江津で農業を承継していくのか。全国で言われる農業従事者の高齢化・後継者問題である。

 

「僕だっていつ引退してもいいようにしておかないとね(笑)。」(大畑さん)

 

少子高齢化が著しい地方の町にとっては大きな課題である。 大畑さんは後継人材を求める活動として国内最大級の就農イベントと言われる『農業人フェア』にも10年以上参加しているという。しかし、なかなか目当ての人材に会う機会は得られていない。どうにかしたいという想いはあるが、人を呼ぶこと、育てること、そもそも江津に就農し、定住してもらうことの難しさをイベントに出展する度に痛感する。

改善策としてはいかに定住環境を用意できるかということに尽きる。 江津は山に囲まれているため、農地に適する土地に余裕がない。(もっとも地理地形そのものについての話なので仕方がないことではある。)そして農業機械の初期投資がかかることや整備できる環境、お金をかけずに即入居可能な物件の確保など、とにかく仕事と生活環境を整えなければ就農希望者を受け入れることはできない。このような環境づくりについては大畑さんは江津市とも協議しながら少しずつ前に進めている。

 

「石見でも浜田の弥栄や金城あたりは自分の山を切り崩してハウスをやってる人もいます。それくらい広い土地がないから仕方ないんですけどね。そればっかり言っていてもしょうがないので、土地がない中でどうやっていくかを考えなければいけない。大量生産は都市部近郊の平野がある場所が適しているし、そういうところには到底敵わない。だから生産量で対抗するのではなく、少量多品種で質やここでしかできないものを伸ばしていくという考え方でいくしかないと思っています。

「有機」「オーガニック」と呼べるものもそうだし、加工品や余剰品やB級品で特徴がある使い方ができるといいですよね。例えば大根ひとつとっても、漬物や切り干し大根など使い道はあるのでそういうもので江津の特産品はできないものかって農林水産課の湯浅さんとも色々考えたりしていますよ。そういうことから広がりを作りながら小さい農家さんや家庭菜園レベルの人たちとも関わりをつくる。サンピコだけではなくて最近は『あさりの杜』ができてNAOFARMの農産物を加工する工房や自然食品を扱うショップもできた。そうやって江津で盛り上がりをつくっていければいいですよね。それからあまってる農業機械だってきっとどこかにあると思うんで、欲しい人とマッチングできれば効率もいいですよね。」
(大畑さん)

 

 

江津の農林水産課の職員さんは毎回優秀な方が多いです。細かいことも熱心に動いてくれるし、とても助かっています。(大畑さん)

 

「江津の農林水産課の職員さんは毎回優秀な方が多いですね。特に有機農業担当は女性が多いからなのかまめに動いてくれる方が多く、いつも生産者たちと仲がいいですよね。農産物や農地のことはもちろんですし、取り決めや書類作成など農業で括るとあらゆることがありますけど複数人で動くことが多い。生産者を取り巻く江津の農業チームという雰囲気がとても良くて助かっています。」
(大畑さん)

 

県の公式発表によれば、これまで中核産地を有する市町等と協力し、有機農業に関する就農パッケージを作り、新規就農者の確保を進めてきた。今後はさらに拡充し、「地域における研修先の拡大」「優良農地の確保」「有機栽培技術の早期習得」「中核産地との一元販売や販路共有」「住まいなどを包括的に網羅した、有機農業版『包括的就農パッケージ」』の作成」を進めていくという。

県内の有機農業の中核産地として安来の赤江・オーガニックファームなどがあるが、石見地方は「いわみ地方有機野菜の会」「やさか共同農場有機生産者グループ」、吉賀町の「食と農 かきのきむら企業組合」や「(株)エポックかきのきむら」など県内でも有機農業推進という意味では一歩リードしている。県との橋渡しや浜田とも連携をつくったりと、江津市もその動きは活発だ。

「浜田も大田も江津も垣根をつくらず一緒になってやっていけばいい。その中心に江津があるとよりいいですけどね。」と大畑さんは話す。過疎化が進むエリアにおいて皆で取り組むことのメリットは大きい。国からは有機農業拡充を題目としたオーガニックビレッジという小さくない支援が約束されている。この追い風を受け新たな人材を確保し、地域農業の担い手を受け入れる動線を整備していかなければならない。それがこのGO-ganicの活動の根本にあるミッションだ。

 

 

「人を呼ぶということ、おもしろいことをやり続けていくこと。菰沢公園でやったようなフェスもいいですよね。次世代の農業高校の学生や農大の学生なんかに江津でこんなおもしろいことをやっているよっていうのを売り込んでいったらどうかなって思うんですよね。今農大でも有機専攻が増えていますしね。地域の跡取りとしてというのもわかりますけど、江津でやっているプロジェクトを知ってもらいたいですよね。人口も減るしね。他県からの移住希望者もこれからまた出てくるだろうし、こうやって江津を活性化させたいです。有機農業という視点でね。そこしかないと思うね僕は。ここ1、2年くらいこのGO-ganicを通じて『まとまり』ができていることをとても実感します。これが江津の良さですよね。」
(大畑さん)

 

化学的に合成された肥料や農薬を使わないこと、遺伝子組み替え技術を使わないこと、環境への負荷をできるかぎり低減すること。そのような「地球と人にやさしい有機農業の考え方」はさておき、 有機農業一筋の大畑さんが描く農業から始まる夢。それはこの町で生産者から消費者までの循環がよりよいかたちでまとまっていくこと。江津の農業がこれまで以上に大切にされること。それが市民の幸せにつながるだろうという大畑さんの信念。

暮らしの根にある「食べるもの」「その食べものはどこから来たのか」についてもっと深い面白さがあることをまわりの人たちと共有してみてはいかがだろう。この町には学びと気づきの素材が十分揃っている

(完)