#06 社会が強制的にストップしたコロナ禍社会から見えた幸せ。サーフポイント、安心安全な食べ物、支え合って生きていけることを実感できた温かいコミュニティ。それ以外になにか欲しいものってありますか?
Date : 2025年3月7日
GO▶︎ganic PEOPLES! #06
あさりの杜 事務局長 平下 智隆さん
写真・文 / 戸田 コウイチロウ(GO GOTSU.JP編集部)

「子供たちの未来のために、豊かな自然環境と安全安心な食の確保を。」をスローガンに掲げ、有機農業を実践する生産者とオーガニックな食や暮らしのあり方を提唱する民間の有志メンバー、それらをとりまとめる江津市農林水産課。仲間づくりや有機農業を目指す人材の発掘、オーガニックに対する意識醸成といった啓発活動を三者で手を取り合って進めていく有機農業推進プロジェクト、それが『GO-ganic』(ゴーガニック)だ。
GOGOTSU.JP編集部ではこのプロジェクトの中心的な役割を担い、啓発活動を続ける方々のお話をお聞きし、連載としてお届けします。題して『GO▶︎ganic PEOPLES!』。
第6弾は創業から50年以上に渡り化粧品・スキンケア製品の販売を行っている株式会社三維の代表取締役、平下智隆さん。(以下、平下さん)本来人間が持っている免疫力や自然治癒力こそがその人を美しく健康に、そして幸せにさせることができるものであって、化粧品で上辺を取り繕うのではなく大地や自然と繋がろうという明確な製品コンセプトは創業当初から一貫している。
2020年、新型コロナウィルスによるパンデミックが社会全体を襲ったあの時期、平下さんは毎日のようにサーフィンに出かけた。「地球、自然と人間はつながっているはずなのに、なぜ菌やウィルスを取り除こうとするのだろう」という疑念が頭をもたげる。そこから仲間とともに江津の町を「オーガニックタウン」にしていく構想が思い立った。自分に必要なものは揃っているし、美味しい食べ物も、自分が好きで遊べる場所もすべて江津にある。一体(自分には)他になにが必要というのだろう。
これからの時間を地域社会にとって必要なことを見つけ、自分の関わりをつくっていくことに費やしたいと語る平下さんは、2024年、江津の浅利に新社屋、自然食品を扱うセレクトショップ、生産者自らが運営し育てた野菜を味わえるカフェラウンジ一体型施設『あさりの杜』を建設した。同時にあさりの杜の荒れてしまった土地や生態系を最適な状態に蘇らせるべく土壌改良プロジェクトにも建設当初から着手している。オーガニックタウン構想への実現とそれ自体が自らのライフワークになった今、GO-ganicの活動はむしろその一部だ。あさりの杜で話を伺った。
『菌やウィルスを人間にとっての「悪」だと決め込んで除菌したり、ソーシャルディスタンスを実施したりという社会の風潮。「なにか、おかしいよね。」(平下さん)

「私は、株式会社三維(以下、三維)という石鹸や化粧品、スキンケアを取り扱う会社を経営しています。製品を扱う上での考え方のベースには化粧品で装ったり潤ったりするのではなく、人間が本来持っている自然のチカラを有効に活用しよう、自然と繋がろうという理念があります。
もう少し具体的に言うと、皮膚の上には菌がいるんですね。その菌たちが汗と皮脂を『餌』にして潤いの成分を作ってくれているんです。これを私たちは「天然のクリーム」と呼んでいます。そのクリームをたくさん出せるような肌にしていきましょう、という考え方が根底にあります。汗や皮脂というものは飲む水だったり、食べている物で出来ているので当然ですが、食べ物は非常に大事になってくるんですね。
僕自身20代の頃ですが、アメリカのウエストバージア州のとある農場で1年ほど働いた経験もあります。『ウーフ』を使って働ける農場を見つけたんですよ。(※編集部注:WWOOF/ウーフとは金銭のやりとりのない人と人との交流で関係性を深化させ、オーガニック生活を知り、新しい知見を得て、価値観の多様性を感じ、自分を向上させていくことを目的とした事業。70年代にイギリスではじまり、オーストラリアやニュージーランドで発展していったとされる。)
農場はワシントンDCから車で5時間くらいのところでね。バイオダイナミック農法(※編集部注:月や太陽など天体の動きから小さな虫の働きまで、自然界の全ての事象が関係し合い、農場という一つの生命体を作っているという考え方に基づく農法。技術というよりは思想に近いと言われる。)というものを初めて知りました。別の場所では、例えばアフリカではコーヒーは主力作物として作られていますが、作り続けていると土地が枯れてやせていくんですね。そうなっていくと、人が安く使われたり、搾取されるようなビジネスの構図ができあがっていくといったことを目の当たりにしたこともあります。こういった問題について『自分たちの食べるものを有機農業で行っていこう、公平な取引を行おう』とする国際協力事業を行う機関で仕事をしていたこともあります。
こういった経験は今の仕事についてからも食べる物が肌にとっても大事であること、さらには社会や環境にとっても大事な要因であるということを感じながらやってきました。そういう意味では『食と健康、食と環境』いうものにはずっと関わってきたと自負しています。会社としての理念もあわせてこのような『運動』を会社を通じて50年間に渡って行ってきました。」
(平下さん)
2020年、新型コロナウィルスがやってきた。パンデミックを伝えるニュースが毎日流れ、社会全体が停滞したかのような日々。しかし平下さんはもっぱらサーフィン三昧だった様子で「あのときはなんにもすることがなくなりましたよね。むしろ、思考が整理できたし、頭がスッキリした。」と当時を振り返る。
そんなときに本連載でも取り上げさせていただいているNAO FARMの深町桂市さんと海で久しぶりに会った。新型コロナウィルスで亡くなる人も世界中で多く、未知のウィルスだったこともあり過剰にメディアは過剰に、ときに誇張した報道をする。しかし、菌やウィルスを人間にとっての「悪」だと決め込んで除菌したり、ソーシャルディスタンスを実施したりという社会の風潮を見ながら「なにか、(社会が)おかしいよね。」と二人で話し合った。
そういった対処法よりも腸内細菌のチカラを食べ物によって作用させ、カラダを守る免疫力を高めることや、大前提に地球と人間が繋がって自然の摂理が働くことによって新型コロナウィルスに負けないくらいの自然治癒力に磨きをかけること、そういうカラダづくりを大切にしないといけなはずだという意見で共感し合ったという。
「SDGsやオーガニックのような言葉は浸透しているけど、地球や自然と人類の距離が離れていってるのではないか、という危機感を強く持ちました。菌を悪玉にしたり、ソーシャルディスタンスをするのではなく、本来の人間が持つ自然のチカラを信じるようなところに立ち返って綺麗に、健康に、幸せになっていかなといけないよねとう話で意気投合しました。それですぐに『そういう運動を始めよう』となって『江津をオーガニックの町にしたい。』というテーマが生まれたんです。」
(平下さん)
これ以降、本連載でも何度もお伝えしているとおり、さまざまな市内の方達とのコミュニティが生まれ、オーガニックフェスタや映画会といったイベントが実施されていく。GO-ganicの前身となる市民プロジェクトだ。

平下さんはそれまで江津町にあった三維本社の新社屋を浅利町に新たに建設・移転した。事業所だけでなく、自然食品や良質の調味料、添加物を使わないお菓子などを取り扱う「ナチュラルショップ陽樹」を併設した。運営責任者は妻であり三維の社員である平下由紀子さんだ。
陽樹(ようじゅ)というネーミングは、十分に光(陽)を浴びて成長していく樹木のイメージと、心身にとって安心・安全で、地域の人の暮らしとともにあり続けていきたいという想いが込められている。ショップのコンセプトに合う生産者や地域の作り手のセレクトされた商品が並ぶ。さらに、農場が隣接するNAO FARMの農産物加工場とカフェラウンジ棟「LAUGH ROUGH(ラフラフ)」もあわせて新装開店した。NAO FARMの深町直子さんは農業だけではなく、ジャムや調味料などの加工品の製造販売やイベント向けフード業などもこれまで行ってきた食のプロフェッショナルでもある。
このカフェは週の半分はNAO FARMプロデュースによってランチ営業され、NAO FARMブランドの加工品の製造も兼ねたスタイルで開業している。NAO FARMと共同であさりの杜に取り組むことも「なぜオーガニックなのか」「なぜこういうことをやるのか」「そこにはどんなメッセージがあるのか」を発信するための場所としても立ち上げる理由があった。2024年夏、この事業所は「あさりの杜(もり)」と名付けられオープンした。
コロナ禍を経て平下さんにとっての新たなライフワークがこの数年で始動したことになる。オープン以降、多くの人が集い様々なイベントやワークショップを企画している。
「水脈を整え 生態系を取り戻し 肥沃な大地へ みなで手懸ける『あさりの杜』は “循環の要”になる」というコンセプトビジョン
「社屋が古くなってきていたので修繕する必要がそもそもありましたが、それよりも会社が50年以上やってきたこの「運動」を江津に住む未来の子どもたちに伝えたい、届けていきたいという想いを強く持つようになったんです。同じ目的や価値観を持つNAO FARMの深町夫妻とも一緒にやることになったことも自然の流れでしたね。
オーガニックを日常の暮らしの中に感じてもらえる場所にしていきたいと思っています。カフェやナチュラルショップといったものはオーガニックを伝える手段であって、本来は自然と人間の関係性を見つめ直してもらうこと、コマーシャリズムによって不必要とも言えるほど情報過多の時代の中で、自然の摂理やそのリズムを感じることを忘れてしまっていることへの気づきと、きっかけの場所になれたらと思っていますね。」
(平下さん)

人間が本来持っている生命力の尊さに一度立ち返り、気づきを得ることで私たちは十分綺麗に健康に、幸せに暮らしていけるはずなのだというメッセージ。食や商品、なによりここで働く人たちとのコミュニケーションによって発信していくこと。これが本来の目的であり、平下さんの現在地だ。
あさりの杜があるこの土地についても触れておきたい。元来、浅利という地域は石見焼きをはじめとする、陶芸産業が盛んな場所だった。良質な粘土が取れることが何よりの証左だが、その一方、このような土地は水が流れにくく、滞りやすい。建物を立てるには地盤としても少々やっかいな場所でもあったそうだ。過去、この土地全体に人工的に手を入れたことが原因で水捌けなど、土地の循環機能が悪化してしまった。それもあってこの土地は建設当初から『大地の再生』という抜本的な土壌改良と適切な環境整備を施す専門家の方々とともに、土地が持つ本来の姿を取り戻す環境づくりを実践している。まさに土づくりをゼロから行っているのだ。
「ここは粘土質の(地盤の)緩い土地なんです。(苦笑)ここに加わってくれた『大地の再生』の方々も同じ想いを持ってくれていると感じています。普通だったらコンクリートで基礎を固めて建物を立てますよね。土地が悪ければ悪いほどそうするはずです。そうではなくて、水と空気、風の流れを時間をかけながらゆっくり作りながら、自然の摂理が働くように回復させ、再生させるという手法です。
さらに樹を植えて、風通しも良くし、土地全体に宿る菌も含めて取り戻す。これを『安息の状態』と大地の再生の方々は言っています。厄介だと決めつけている雑草もなんでもかんでも刈るわけではありません。風の流れを作ってあげたり、よい大地を作ることが実はその土の上で生活する人間も企業活動も安息の状態、それはつまり人が集まったり集まりたくなるような状態を生み出していく作用があるという考え方。非常に興味深く彼らとの関わりを持っています。
浅利という土地はNAO FARMさんのような農家さんが25年以上も(自然に寄り添う)真っ直ぐな農業を行っている場所ですし、海があり、川があり、山がある場所です。そんな場所で大地を再生したり、そこに集う人たちがそういった考え方を発信したりするようになっていけば江津のみならず、日本全体、世界に対しても危機にある『人間と自然の関係』を取り戻すきっかけになるんじゃないかなと確信しています。いろんなイベントをやりながら美味しく、楽しく、私たちのメッセージに触れてもらえたら嬉しいですね。」
(平下さん)
言われてみれば、夏場でも涼しく心地よい風が吹き抜け、雨の日は泥で深く緩んでいたはずの地面の水捌けが格段に良くなっている。来館した人たちの多くはそれに気づいたかもしれない。このような思想と設計を伴った建造物は江津には類を見ない。まずは土壌を適切で心地よい状態に改良すること。それ自体が自分たちのビジョンやアイデンティティを体現しているものであり、この環境に自分たちの事業を重ねていく。
NAO FARMの深町さんともこれまでたくさんのことを語り合ってきた。新しい環境づくりに向けて計画を立て自分たちの働き場所をより良くし、生き甲斐をつくるために協力し合って仲間づくりをしていくという。「水脈を整え 生態系を取り戻し 肥沃な大地へ みなで手懸ける 「あさりの杜」は “循環の要”になる」というコンセプトビジョンを掲げた。」

新社屋建設に先立ってNAO FARMが持つ農地の一部を「三維ファーム」としてレンタルし、この新社屋ができるよりも数年前から社内菜園をスタートさせた。
なぜ始めたのか。きっかけは『菌ちゃん先生』ことオーガニック野菜農家の吉田俊道さんが出演している映画『いただきます ここは、発酵の楽園』を鑑賞したことだった。微生物や菌がカラダを強くすることを知り、菌は人間よりもはるかに良い仕事をしている、ということを教えてくれるこの映画に平下さんは感銘を受けた。菌の力に興味を持った平下さんが「社員のみんなにこの映画を見せたいという気持ちを持った」という想いはのちの映画会イベントとして実現する。なにより自分たちで畑を耕し、土にふれ、作物を育てよう、それを社員みんなで学んでいこうということに特別な可能性を感じた。
「2022年に畑作業が始めました。やってみたらいい具合に野菜が育ったんです。それまではほとんど弁当屋さんやスーパーなどで買って昼食を済ませていたんですが、これを機に会社側で桜江の反田さんの自然栽培の玄米を手配し、社員みんなで自炊するようになったんです。お味噌汁の具は自分たちで育てた野菜。自然発生的に『社員食堂』が立ち上がったというかね。自分たちのお昼ご飯は自分たちで作ろう、作物は自分たちで栽培しようという意識が生まれるようになりました。畑作業も勤務時間のような流れになりましたね。」
(平下さん)
生産や販売目的ではなく、自分たちのためのアクション。社員自らが生きた土に触れ、作物を育てるという実践。社内コミュニケーションはより豊かになっていくことを平下さんは実感する。社屋も新しくなった今でも「自主的な社員食堂」は続き、今やあさりの杜のカフェ棟では自然栽培の玄米とお味噌汁のシンプルなランチメニューを「みつい社食」として一般開放するまでになった。平日のみ、数量限定、ワンコイン価格。このようなプロセスを経て解放された社員食堂を多くの方におすすめしたい。
「ハレの食ではないですし、粗食ですよ。自分たちが考えたり実践したことがすべて繋がって自然と生まれたものです。この地域にも周囲に企業がありますし、工業団地もあります。こういう食堂があってもいいかなと思って始めてみました。スタッフを用意したら値段は高くなってしまいますから、すべてセルフサービスです。自分たちで盛り付けて自分たちでお皿も洗ってもらう。社員と同じスタンスでお昼ごはんを食べる場所です。
そういえば20代の頃、山梨の小淵沢にあるアルソアという化粧品会社で1年間働いていましたが、初めて任された業務が『日本初のオーガニック社員食堂の立ち上げ』というものだったんですよ。(笑)調理はもちろん、コンセプトを作ったりとかね。その当時の社長はマクロビオティックに精通されていて、クシインスティテュートオブジャパンの代表もやっていた方なのでそこでいろいろと経験させてもらいましたね。あの頃の自分の仕事が、こうやって今に繋がってるのかなと感じています。」
(平下さん)
(※編集部注:クシインスティテュートとは、アメリカのボストンを拠点に自然食の方法論と実践を持つマクロビオティックの研究と普及に多大なる実績を残した久司道夫氏の活動団体。健康が世界平和の鍵だとした。)

これから先の地域・社会に必要なものを自分で感じ、考え、少しでも正していくようなことをしていきたいと平下さんは言う。
「そうは言っても独善的ではいけないし、楽しく、おもしろく表現しなければいけません。ただね、そのためだったらもう僕は何もいらないって思ってるんですよね。(江津には)食べる物もあるし、自分が好きで遊ぶところもある、あと僕にはなにが必要なんだろうと思うところもあって。(笑)少しづつこういう運動が拡がっていくのを見ていくのが僕の今の楽しみです。事業性と社会活動は時代背景なども考えていく必要がありますし、そのためにはいろんなアプローチが可能ですね。」
(平下さん)
「誰かとの比較ではなく、ただただあるもの、その恵みに感謝することが自分の幸せだと感じるようになりました。」(平下さん)
「自己実現や物欲、承認欲求、地位や名声などにあまり執着し過ぎると永遠に不安が続くんじゃないかと思うんです。他者と自分をずっと比較したりもそう。上には上がいるし。
コロナで全部がストップしたときに足元を見たら『江津って全部あるじゃん』と思ったんですよ。社会が強制的にストップしたからこそ見えた幸せというものを僕は感じました。近くにサーフポイントがあること、安心安全な食べ物があること、温かいコミュニティがあって、協力したり支え合って生きていけることを実感することができたなと思いました。
それ以外になにか欲しいものってありますか?そのときに僕は『あれもいらない、これもいらない』という気持ちになりました。残ったもので十分あるじゃないかと。誰かとの比較ではなく、ただただあるもの、その恵みに感謝することが自分の幸せだと感じるようになりました。 この町に住んでいる人たちが思っている以上に江津はいいところだし、世界トップクラスだと思っています。誇りを持って暮らしていきたいという気持ちです。
江津で安心して暮らせるための土台となるのはやっぱり『食』です。NAO FARMや反田さんのような若い生産者の方たちが一生懸命農作物を作ってくれています。健康に暮らすための『食』が人と人、自分の健康をしっかり繋ぎ止めてくれる。そのおかげで家族や友人、仲間たち、愛する人たちと暮らすことができる。こういうことを僕はパンデミックによって気付かされたと言えますね。GO-ganicの活動がそういうきっかけになって多くの人に気づいてもらえたらいいなと思っています。」
(平下さん)
GO-ganicでの自身の役割とは。『オーガニックについて考えるきっかけと実践できる場づくりを提供して、コミュニティを拡げていくことですね(平下さん)
GO-ganicにおける平下さんの役割は情報発信やイベント企画、仲間づくりだ。出店者が集うマルシェや映画会を企画したり、市内外全般にオーガニックとはなにか、江津で有機農業を推進していくことについての意識醸成を促し、共感する仲間をつくることを目的とした活動が主な役割だ。11月には『コンポスト大作戦』なる実践型ワークショップイベントを開催する。
ご存じの方も多いがコンポストとは、家庭から出る野菜くずなどの生ごみや葉、紙などの有機物を、微生物の働きにより発酵・分解して堆肥を作ることを言う。生ごみが減を減らし、二酸化炭素の排出を削減する機能を持ち、作られた堆肥はプランターや庭、畑に利用し、その結果として食料サイクルといった循環を生み出すことができるという一大アイデアだ。単純に考えて、台所で毎日出る生ゴミが地域資源になるということだ。この取り組みはもちろんGO-ganic的活動と言える。

「(NAO FARMの)深町桂市さんが千葉で研修プログラムに参加してパーマカルチャーの講師・デザイナーになったことがこういうワークショップイベントを企画する大きなきっかけです。研修で出会った方がコンポストの普及活動を行っている方だったんです。
また菌ちゃんの映画の話に戻りますが、土の中にある菌が元気、豊かであること、その菌が植物に栄養を与えてくれ、それを食べる私たちの体内に菌が入り、それによって自然と繋がっていくという循環の話。それがあの映画のエッセンスだと思うんですが、それを一番カジュアルな形で日々の生活の中で感じることができるのがコンポストなんです。 生ゴミは水分が90%と言われ、それを焼却し続けることは環境にも大きなエネルギー負荷がかかっていますよね。もちろんそういう視点で生ゴミ・家庭ゴミを考えるのもいいですし、僕やNAO FARMさんはなにがいい土でなにがいい野菜なのか、そこに菌がどういう役割を果たしているのかっていう視点で考えています。とても面白いと思います。
身近な形で誰でも土づくりができるのがコンポスト。じゃあ健康な土とはなにかを考えてみる。そこから食のことを考えていったり、化学肥料や農薬を使った食べ物とどう違うのかを知ってみたり。土や菌を通じて本当に健康な食糧・食物とはなにかを考えるいいきっかけになるのではないかと思っています。コミュニティが広がったり繋がったり、ゴミが循環して資源になることだったり、講演会とワークショップで予定しています。」
(平下さん)

残る生涯はこのシンプルなメッセージを繰り返し繰り返し、手を変え品を変え、想いを込めて発信していくことに尽きるなとワクワクしているところです。(平下さん)
来年度以降は江津のどこかに『GO-ganicハウス』と呼ぶようなGO-ganicを象徴するようなスポットづくりもしたいと話す。例えばそこに地域おこし協力隊のような方を採用し、江津のオーガニック情報ステーションといえばここ、というような活用イメージだ。
他にも上津井(かんづい)地域での米づくり体験ワークショップ計画もある。上津井では学校給食に使うための無肥料米が作られているが、休耕田もたくさんあり、米づくりに興味が持つ人を募ってワークショップを行い生産量を増やしていこう、といった具合だ。GO-ganicの運営チーム内でのコラボレーション活動もより一層促して行きたいと語る。
「中核となって動けるプレイヤー探しというのも今後のテーマになりますね。」と平下さん。焦点の定まった活動フィールドをつくり、移住者や関係人口づくりも同時に行っていく。生産者が中心となってできた組織が江津の有機農業推進協議会だが、ここに消費者、生活者が加わって官民一体となって活動するというのが江津らしさだろう。
「僕はこうやって行政の方と密になって長期間に渡って協働していくのがはじめてのプロジェクトですが、生産者と消費者、それぞれの役割で有機農業を拡めていこうというのは楽しい。生産者の方々の中には『自分たちがやっていること(有機農業)をわかってくれて、一緒に汗を流してくれるなんて涙が出るほど嬉しい』と言ってくれた方もいました。『足が震えるほど嬉しい』と。
消費者が立ち上がって一緒になって活動してくれて声をあげてくれることが嬉しい、と言われてからこういうプロジェクト、ワーキングチームに僕たちがいることは価値があるんだなと感じました。相乗効果、両輪で進めていくことですよね。もっと賛同してくれる仲間を増やしていきたいと思っています。」
(平下さん)
これからどんなふうに生きていきたいのか、どんな暮らしを創造していくのか。GO-ganicという言葉を自分たちで理解し、ブランディングして自分たちの町に誇りを持つこと。GO-ganicという言葉と活動をする意味。得たものを他の誰かにお裾分けできるような運動体になればいいというイメージとともにこれから先も江津の有機農業という産業とこのGO-ganicというプロジェクトにはずっと関わっていくと平下さんは決めた。
「新型コロナウィルスやその後のパンデミック、NAO FARMさんとの協働すること、これらすべてが繋がり始めたなと感じています。残る生涯はこのシンプルなメッセージを繰り返し繰り返し、手を変え品を変え、想いを込めて発信していくことに尽きるなとワクワクしているところです。サーフィンをしていることもすべてはここに繋がっているんです。サーフィンが好きでやっているというよりも地球と繋がりたい、みたいなね。(笑)それが一番気持ちがいい瞬間。政治活動だったり、子どもたち連れ回してSUPやったりいろんなことをやっていますが、すべてここに行き着くんですよ。」
(完)