#08 豊作であれば嬉しいなと思いますし、猪や猿が出るとコノヤローと思いますし、そんな小さなレベルで一喜一憂してますよ。お米を刈るときのコンバインのシャッ、シャッという音が、ああいいなと思いながらね。

Date : 2026年2月19日
GO▶︎ganic PEOPLES! #08
有限会社スプラウト島根 
代表取締役 安原 宗寿さん
写真・文 / 戸田 コウイチロウ(GO GOTSU.JP編集部)

「子供たちの未来のために、豊かな自然環境と安全安心な食の確保を。」をスローガンに掲げ、有機農業を実践する生産者とオーガニックな食や暮らしのあり方を提唱する民間の有志メンバー、それらをとりまとめる江津市農林水産課。仲間づくりや有機農業を目指す人材の発掘、オーガニックに対する意識醸成といった啓発活動を三者で手を取り合って進めていく有機農業推進プロジェクト、それが『GO-ganic』(ゴーガニック)だ。

GOGOTSU.JP編集部ではこのプロジェクトの中心的な役割を担い、啓発活動を続ける方々のお話をお聞きし、連載としてお届けします。題して『GO▶︎ganic PEOPLES!』。

第8弾は桜江町を拠点とする有機JAS認証農家である有限会社スプラウト島根(以下、スプラウト島根)の安原宗寿(やすはら むねとし)さん(以下、安原さん)。取り扱っている農産物は主に大麦若葉、もち麦、大豆、えごま、米。現在の農地面積は15ha(1ヘクタール=100m × 100m)だ。大麦若葉の主な販路は健康食品関連企業だ。

スプラウト島根は20年ほど前に先代である安原和男さんが設立した会社だが、2024年に急逝。安原さんは家業を手伝うためにUターンしたが、10年目にして正式に代表取締役に就任した。桜江の農業従事者として次世代を担うであろう安原さんに事業のこと、日々向き合っていることについて率直に語っていただいた。

 

『私自身が高尚な理念を掲げているというよりは父の想いをそのまま譲り受けたような気持ちです。』(安原さん)

▲大麦若葉をつくっている桜江町の圃場(全面がスプラウト島根所有ではありません)

「父は、この会社が設立20年のタイミングで他界しました。元々、桜江の土地を大事にしていましたし、地域の雇用創出と農地保全を理念に掲げていました。そのような想いとともに引き継いでいます。正直なところ、私自身が高尚な理念を掲げているというよりは父の想いをそのまま譲り受けたような気持ちです。(安原さん)

山あいに広がる桜江町は養蚕で有名な土地だった。かつては桑からとれる蚕(繭)は貴重な基幹産業だったが、化学繊維の普及と輸入によって価格が暴落したこと、何より手間のかかる作業としての養蚕の後継者不足が主な要因として次第に廃れてしまった。その後、土地は荒れてしまったが、どうにか畑に戻す(畑として再活用する)ために尽力したのが同じく桜江町にある農業生産法人有限会社桜江町桑茶生産組合(当時は有限会社桜江町桑茶生産組合)の古野俊彦さん(現・代表取締役会長)だった。

平成16年に江津市と桜江町は合併したが、スプラウト島根が設立されたのも同年だ。この時期に志の合う者同士が桜江の有機農業という「新しい産業」を立ち上げたと言ってもいいだろう。安原さんの父である安原和男さんはその中心人物のひとりである。遊休農地を活用し、大麦若葉のような土地に適した品目を生産、加工する事業を商機と捉え参入した。

「今から10年くらい前ですが、私は兵庫の大学を卒業後、介護福祉業に就いていました。30代になる前にこれからのことを考えるようになったそのタイミングで、父に『桜江に帰ってこないか』と言われたんです。農業をやろうというよりは腰掛け程度で、阪神タイガースファンなのでまた兵庫に戻るつもりだったんです(笑)。野球は観るのもやるのも好きなんです。最近は観る方ばっかりですけれども。」(安原さん)

古野俊彦さんが桑の開墾を行っていたその当時、宗寿さんは中学生。抜根作業や苗木を植える作業などを手伝っていた原体験があった。農作業への抵抗はなく、桜江町に戻った頃もはんだごぼうの反田さんやMOG-MOG farmの藤井さんなど少しづつ知り合いや仲間ができてきたことは大きな決め手となった。言うまでもなく江津市(農林水産課)との関わりも大きい。使われていない田畑の土地をいかに有効活用しながら事業づくりができるかを次第に考えるようになったという。

「戻ってからの桜江は大きな視点で言えば変わらないなとは思います。今ある建物は昔からありましたし、橋の色(桜江大橋)もそのままです。それまでは4年に一度くらいしか帰省しなかったので『あ、コンビニができてる』なんて思っていましたね。でも桑茶さんは大きな会社になっているし、反田さんのごぼうは有名ですし、最近では県外から来た若い方が農業を始めています。たまに兄と釣りに行ったりします。桜江町の風景は昔と変わらないので、すぐに馴染めましたね。」(安原さん)

『主力は大麦若葉。健康食品の原材料として確固たるニーズがあります。』 (安原さん)」

10年前に戻ったときは一般社員で、当時の主力農産物は大麦若葉それ一本だった。時代や産業の変化やコロナ禍を経ていく中で従業員たち同士で大豆や米もいいのではないかなど話し合った。えごま生産も始まり、事業が少しづつ横展開していくようになった。安定した経営を目指し、現在は大麦若葉、大豆、水稲、えごま、もち麦、この5品目が主力で、有機のお米もニーズがあることから生産拡大を考えている。特に大麦若葉は加工して付加価値をつけて販売しているので事業の柱になっている。

自社で行っているのは栽培、刈り取り、乾燥、荒粉砕までで、そこから先はしまね有機ファームに出荷し加工品製造となる。ご存じのように大麦若葉はそのほとんどが青汁の原材料となる。健康食品産業では身体に良いもの、環境に負荷がかからないものへのニーズが常にあり、曰く「事業の9割が原材料づくり」である。

「農業に関することはもちろん、経営や事務処理ひとつとってもわからないことだらけですがあっという間の10年でした。今も手探りで、目の前のことでいっぱいな毎日ですが、豊作であれば嬉しいなと思いますし、猪や猿が出るとコノヤローと思いますし、そんな小さなレベルで一喜一憂してますよ。お米を刈るときのコンバインのシャッ、シャッという音が、ああいいなと思いながらね。

父という存在をより一層感じますが、周りの方々に恵まれているのかなとは思っています。桜江町桑茶生産組合の古野利路さん(現・代表取締役社長)がサポートしてくれたり、訊けば反田さんは何でも答えてくれます。少しづつ(自分にとっての)輪が広がってきていて楽しいなって、そう思いますね。(安原さん)

ここまで話を伺うと、桜江町という土地は有機農業に適しているとか、同じ志の人が集うといった印象があるが、地元の方々は農業に適した土地かと問われるとそうではないときっぱり言う。それは水害が頻繁に起きるからだ。農業の経営戦略が立てにくいと言われるだけでなく、暮らしそのものにも大きな影響を及ぼす。それでも水害が町民たちの団結心を生み出し、石見神楽(いわみかぐら)や消防団活動、近年ではマラソン大会(ピクニックラン桜江)の開催によって多くの関係人口の創出が桜江町にうるおいを与えていることも事実であり、反田さんや古野さんといった活き活きとはたらく現役の生産者たちの取り組みが桜江の小・中学校の学校給食にも影響を与え始めていることも今の桜江を大いに象徴する出来事だろう。

『農業をやっている中での課題ですか。守っていきたい気持ちと会社の経営的なところと、様々な葛藤はあります。』(安原さん)

「日本海側でも広い平地がある場所はお米をやるにしてもコンバインが入りやすいから取り回しもいいですよね。だから生産性もいい。でも山あいの中山間地域なんかは70代80代の高齢者の方々が『ふるさとを荒らしてはいけない』と想いだけでやっている農地があるんです。その方達がいなくなって今後誰も手を入れなくなってくるとどんどん荒れてしまう。それを考えるとなんとかしたいなとは思っています。もちろん声もかけていただいててね、『わしが倒れたら頼むけーな。』と。そう言われてもね。(笑)『110歳まで元気にやりましょう』って言ってますよ。守っていきたい気持ちと会社の経営的なところと、無碍になんてできませんし、葛藤があります。

それとですね、自分のところまで水路が巡っているから仕事ができています。長いところでは1キロくらいあるんです。落ち葉がつまらないようにと、山の上の人たちが水路を整備してくれているおかげなんです。猪の見回りやれって言われてもね、そこまで手は回りません。地域の人たちがいてこそできていることがいかに多いかということなんですよね。耕作放棄地も獣害や景観のことを考えるとないに越したことはないですが、なかなか上手いこといかない。こういう葛藤というか課題は感じています。」(安原さん)

オーガニック給食の取り組みの一つとして桜江町産の無肥料米が町内の小・中学校に試験的に導入させる取り組み。2026年度は年間を通じての導入も決定

▲桜江の小・中学校で提供されている給食。この日の献立は無肥料米をはじめ、桑抹茶や、桜江小学校5年生の授業で作った地元産原料の味噌などが使われている。

2025年1月に桜江小学校で無肥料米を学校給食に導入したことを機に試食会や意見交換会が行われた。桜江では2024年11月から2025年7月まで無肥料米を小・中学校に導入。2025年の新米は2026年の1年間、無肥料米の導入が試験的にとはいえ決定している。これらのお米の生産は2025年度には反田さん、安原さんをはじめ5つの生産者に協力を得ている。江津中心エリアとは「給食センター」のラインが異なっており、オペレーションのしやすさという点において桜江独自の展開ができているが、良質のお米と謳う以上市内全域の小・中学校においては共通にしていく必要性はあり、次年度も協議が続いていくことになっている。子どもたちを取り巻く食環境づくりに熱心な市民や団体、そして生産者がいる限りこの取り組みは前向きに進むものと考えられる。

▲地産地消とオーガニック給食に関する意見交換会の様子。生産者や給食センター、江津市職員、GO-ganicチームなどが集まる。

「桜江の学校給食に自分のところのお米を卸しているというのは一定の信頼感を得られていますし、こういう形で江津市と一緒に取り組めることがあることは誇りに思っています。これからの展望としては、まずは販路や生産(収量)が安定することを目指しています。並行して人手を増やしていけるようにしていきたいですね。お米は作っていて楽しいですよ。先ほど刈る音のことも言いましたが、手間がかかる分、いい出来だと嬉しいですし。

それから有機農業に拘らずに若い農業従事者が増える江津市、というのがいいなと思っています。自分ができるサポートもしたいですし、ネットワークを広げていきたいですね。メールの最後に『代表取締役 安原』と書くのもおこがましいので『スプラウト島根 安原』と書いてしまいそうになるような自分ですが、まわりの人たちに支えられてもらいながらこれからもやっていこうと思っています。」(安原さん)

 

(完)

有限会社
スプラウト島根

Fill the form

Drop us a line

Fill in this form or send us an e-mail with your inquiry.

Or come visit us at:

301 Howard St. #600
San Francisco, CA 94105